今日はどこまで走ろうか

日ごろはミュージシャンとして活動をしている落合みつを氏が、愛車W800に乗って日本を旅する道中に体験したことなどを語る連載企画

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ヨシムラ

近畿エリアの最南端に位置する和歌山県は、険しい山々が道をはばみ、1日かけても県内を回ることが難しい県である。世界遺産になった熊野古道を筆頭にいにしえの時代から訪れるものの信仰心を試すかのような山のたたずまいに、いつにも増して気を引き締めて走り抜けた。

生と死をつなぐ黄泉がえりの山を行く

大阪から高速道路が伸びたこともあり、和歌山までずいぶん行きやすくなったが、それでも奈良から白浜まで3時間。思っていたより遠い。

和歌山を走っている道中、田辺市のカワサキ正規取扱店プラスワンモーターサイクルに立ち寄り、代表の今津比呂志さんにそんな話をしたところ、「和歌山はどこに行くにも遠いのです」とのこと。今津さんは店名と同じレーシングチームを持っていて、鈴鹿8耐に毎年参戦している。鈴鹿8耐の思い出を聞いたところ「どの年も思い出深い。ZX‐10Rを使うようになって、04年に初めて決勝で完走した時が一番うれしかった」と楽しそうに語ってくれた。その日は、チームの仲間が集まりワイワイとやっていた。

筆者の本業はシンガーソングライターである。この一期一会に自慢のセパレートギターを出して生ライブをやった。大いに盛り上がり、楽しい夕べとなった。

パーキングエリア

パーキングエリアで偶然カワサキ車ばかりが並んだ。彼らとすぐに打ち解ける。神戸から来たゼファー乗りは赤土(しゃくど)さんというめずらしい苗字の人だった

プラスワンモーターサイクルレーシングチームのみなさん

鈴鹿8耐に13回の出場実績を持つプラスワンモーターサイクルレーシングチームのみなさんと僕(中央)。チーム名と同じ名のバイクショップには、オーナー兼レーサーの今津さんを慕って素敵な仲間達が集う

今津さん

チームのマシンZX-10Rをメンテナンス。残念ながら予選落ちやリタイアを経験したこともある。04年のレースは忘れられないと語る今津さん

さて、和歌山といえばやはり熊野であろう。ここは熊野三社が有名なので、まずは本宮へW800を走らせた。実はこの旅の前に『熊野詣』という書物を読んできた。内容を短くまとめると、「熊野は生と死をつなぐ黄泉がえりの山」というのだ。冥界にイザナミを留めている熊野。俄然、興味が湧き上がり鳥居を勢い勇んでくぐる。するとそこには八咫烏をモチーフにしたワラ細工や絵馬、銅像があってなにやら不気味な感じ。太古の時代、日本は鳥葬を行なっていた。カラスは“死=汚れ”を“食べて天に帰す”から神聖な神の使いという考えらしい。

八咫烏のモニュメント

宮のあちこちに点在する八咫烏のモニュメント。中辺路側から挑んだ熊野神宮三社めぐりは熊野本宮から回ることにした。実は回る順番にも言い伝えが隠されているらしい。素盞鳴尊を代表に何柱もの神が祀られていた

雄大な熊野川を眺めながら速玉大社へ移動した。通称“新宮”と呼ばれるのだが、境内の露店の気さくなおばさんが「速玉大社本宮は近くの神倉山にあるからここまで来たなら絶対行きなさい!」というので行ってみた。そこは非常に険しい石段が並ぶ。覚悟を決めて大汗をかきながら登り、小さな祠を参拝した。眼下に広がる町を見下ろせば清々しい気分だ。

最後はイザナミが主祭神の那智大社へ。圧倒的な迫力の那智の滝は神の化身という。荘厳さを感じながら三社を巡った。正直、不気味さにそのつど背筋が凍ったが、ひとことで言えば行ってよかった。他県で回る神社とは明らかに違う感覚を覚えた和歌山の旅だった。

那智大社

熊野をめぐる最後の杜は那智大社。初代神武天皇が八咫烏に誘われて見付けた那智の滝は“飛竜権現=大國主命”だという。見るものを圧倒する姿はまさに神がかっていた

熊野本宮

熊野本宮熊野本宮の入り口には三本の足が特徴の八咫烏をワラで編み祀ってある。なぜカラスが神の使いなのか? 人を導く神でもあり、あの世とこの世を行き来する神でもあるのだ

落合 みつを

シンガーソングライター。新潟県出身。2004年メジャーデビュー。世界初の分解ギターをヤイリギターと製作する。現在、愛車W800との旅をウェブ TVで世界配信中。全国コミュニティFM7局放送中『今日はどこまで歩こうか?』詳しくは公式HPインフォメーションにて
http://information.mitsuwo.com
Web TV『落合みつをの今日はどこまで走ろうか?』
http://www.mitsuwo.com/




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