今日はどこまで走ろうか

日ごろはミュージシャンとして活動をしている落合みつを氏が、愛車W800に乗って日本を旅する道中で体験したことなど語る

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カワサキバイクマガジンvol.114掲載記事(2015年6月1日発売)

徳島県の北西にある三好市池田町は、国道32号を高知方面から峠を越える途中にある。古くは平家の落人伝説や戦国武将、三好長慶の口伝が残る地域。江戸後期から明治にかけて行なわれたタバコ産業で、町は大いに財を成した。その象徴、うだつを構えた古民家が立ち並ぶ町並みをW800とともに行く。

空の青さを映す吉野川。四国の秘境が語りだす

新緑が山々の息吹をはやし立てる。春先の四国は、ライダーにとって心地いい風を感じながら走れる絶好のツーリングコース。南国、高知から瀬戸内海に向かって国道32号を走ると、四国山地の奥へと続いてゆく。背中に感じる陽射しは、早めの夏を感じさせていたはずなのに、いつの間にかヒンヤリとした空気に変わっていた。

徳島県に入り、まずたどり着いたのは大歩危小歩危の妖怪伝説発祥の地。おもしろそうなので妖怪村を回ってみると、村のあちこちに妖怪のモニュメントが設定されていて、その由縁が書かれていた。不思議な世界へ誘われながら、愛車W800とともに次は奥祖谷へ向かう。急斜面のあちこちに住居が点在する祖谷村は、平家の落人伝説が残る秘境だった。そこで目にしたのは天然のツタで作った蔓橋という名の吊り橋で、源氏が攻め入ろうとした時はナタで切り落として侵入を妨げる門扉の役目も担っていたという説がある。度胸試しと思い、足元はすき間だらけで不安定なこの橋を渡ってみた。橋の真ん中で足を止めて見上げてみると、時が止まるほどの絶景が飛び込んできた。訪れる際には恐怖に打ち勝ち、ぜひ足元から顔を上げてほしい。

落合 みつを
目的地に向かって予定どおりに走りたいところだが、道すがら気になる神社があれば立ち寄ってみよう。土地にあいさつする余裕を持てば、心に飛び込む景色が輝いて映ってくるはず。ちなみに、写真の顔アップは筆者

村や町の合併で秘境と呼ばれるこの地区は三好市となった。三好といえばこのあたり一帯は戦国時代、三好長慶が統治していた。余談だが、三好長慶は織田信長より先に天下人になったという説がある。残っている文献が少ないので立証はされていないが、なんだかロマンを感じる話である。

今回、三好市でとくに興味深い町があった。旧池田町である。ここはタバコの製造で財を成し、その歴史を伝える町だ。筆者はもうタバコを吸うのをやめたが、かつては愛煙家でもあったので、ひとっ走りした後の“いっぷく”の幸福感を知っている。その味わいを思い出しながらタバコの歴史を手繰ってみた。

うだつ
軒の上にある白いモノがうだつ。本来は火事の際に隣家の飛び火を防ぐために生まれた壁。構えるのに家が一軒建てられるほどお金がかかったので、後に事業の成功を意味する象徴としても付けられた

中村屋武右衛門という商人が、行商で向かった現香川県詫間町にある浪打八幡宮で休んでいた北前船の商人ふたりに出会い、「どうです、いっぷく?」と勧めたところ、「こりゃうまい」とウワサになり粟島で流行。その後、さらに全国へと広がっていったという。ところで北前船といえば終着地は北海道。利尻などで昆布の裁断に使われる“かんな刻み機”に目を付けた武右衛門は改良を重ねてタバコ裁断機を完成させた。もともと手作業で行なわれていたというタバコの製造は、これをキッカケに一気に機械化された。言わばタバコの産業革命である。これにより、大いに儲けた池田のタバコ商人たちは競って防火壁であり富の象徴でもある“うだつ”を自分の家の軒に作らせた。その姿が今も残る池田町のうだつ通りは、クルマがすれ違うにはかなり狭い道だが、バイクならゆっくりと走れる。うだつ通りの入口には庚申様が祀られているので、あいさつをしてからゆっくりとスロットルを回してみた。W800の持つレトロな匂いが池田町を一層身近に感じさせてくれた旅だった。

浪打八幡宮
昔は旅の休憩所は神社だったのか? 浪打八幡宮での“いっぷく”が、タバコの産業革命を導いた運命の出会い。主祭神:誉田別命がめぐり合わせたと思うと開運を願って手を合わせたくなる

蔓橋(かずらばし)

蔓橋(かずらばし)幼い安徳天皇を守りながら、道なき道を祖谷の奥地へと逃げ続けた平国盛。平家再興を夢見て築いた村を追っ手の源氏から防ぐため、防御を兼ね備えた橋としてシラクチカズラなどのツタを使って作られたという説がある吊り橋。

落合 みつを

シンガーソングライター。新潟県出身。04年メジャーデビュー。世界初の分解ギターをヤイリギターと製作する。現在、愛車W800との旅をウェブ TVで世界配信中。全国コミュニティFM7局放送中『今日はどこまで歩こうか?』詳しくは公式HPインフォメーションにて
http://information.mitsuwo.com
Web TV『落合みつをの今日はどこまで走ろうか?』
http://www.mitsuwo.com/




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