ヨシムラ
プロダクションレースの世界で連勝を続けるスーパーマシンのNinja ZX-10R。サスペンションもスペシャルなモノを採用する。ショーワの技術の結晶、BFFとBFRC-liteの実力を、サスペンションの造詣が深い戸田 隆が探る。
悪走行状況でも高性能を発揮するサス
「試乗する車両がNinja ZX-10Rで助かりましたね。おかげで、こんなコンディションでも走ることができた」
試乗を終えた戸田 隆氏が、最初に発した言葉がこれだ。今回、Ninja ZX-10Rに搭載されているフロントフォークBFFとリヤショックユニットBFRCライトのインプレッションが行なわれたのは、2月中旬。場所は、山中のワインディングだ。気温は10度前後、路面温度は陽当たりのいい場所でも20度に満たず、日陰では10度を割り込んでいた。タイヤが本来の性能を発揮する条件からは程遠く、200㎰クラスのマシンを走らせるには悪条件だったにもかかわらず、戸田氏の駆るNinja ZX-10Rは、軽快な走りをみせていた。
「ショーワの作るサスペンションは、ダンパーがしっかりと効いている傾向が強い。Ninja ZX-10Rもその点では変わりない。ですが、動きが鈍いわけではありません。フロントもリヤもよく動きますし、バランスも良好です。とくに初期の動き方はかなり好印象です。しっかりと路面の起伏に追随しながら、乗り手に路面状況を伝えてくれる。
坂を下りながらのブレーキングでは、サスペンションに助けられましたね。タイヤと路面の状況を把握しやすいので、自信を持ってブレーキングできました。路面コンディションが悪かったので、心強く感じました。サスペンションがプアなバイクだと、こうはいきませんから」
減衰力発生は極めて安定。だから攻めていける
戸田氏が言うところの、初期の動きのよさは、BFFとBFRCライトの基幹技術であるショーワのBF(バランスフリー)テクノロジーが実現したものだろう。BFテクノロジーは、従来型ダンパーの問題点の一つ、ダンパー内の圧力偏差を排除することで、性能の安定化や応答性の向上などを目的としている。
「BFテクノロジーの発想は有効に働いていると思います。とにかく、サスペンションの動きだしがスムーズです。フリクションが非常に低いような感覚ですね。ハイエンドモデルのパーツですから、コストはかけられているでしょう。だから、単純にパーツとしての精度が高いことも影響しているとは思います。それを含めて、初期の動きのよさはかなりレベルが高い」
初期の作動性は、ギャップ吸収性や乗り心地の面で重要な要素。もちろん、BFテクノロジーの優位性は、それだけに留まるものではない。
「減衰力発生機構が独立していることは、大きなメリットです。ピストンが減衰力発生の役目から解放されたことで、キャビテーションの影響を考えなくてよくなりましたから」
ストリートでも高性能を発揮
BFテクノロジーは、キャビテーションを解決する策の一つで、減衰力の安定した発生を実現する。このように構造自体にアドバンテージがあることはわかった。では、我々一般ライダーは、具体的にどのような恩恵を受けられるのだろうか?
「減衰特性が非常にリニア。サスペンションが動く過程で、減衰力が不意に変わったりしない。サススピードが低速の動き出しの部分から、しっかりと減衰が効いていますね。これは、コーナー進入時にバイクを寝かせ込む時、大きなメリットになります。タイヤを路面に押し付けやすい。
たとえばギューとフロントタイヤに荷重をかけている時、いきなり減衰が抜けてフロントフォークがダイブしたら怖いですよね? そもそも、そういう挙動を起こした時は、フロントタイヤへの荷重が抜けているわけで、グリップが落ちるので危険な状態です。
Ninja ZX-10RのBFFは、そういう危ない動き方をしません。減衰力が安定しているということは、安心感や安全性の高さにつながるんです。自分が、試乗するバイクがNinja ZX-10Rでよかったと言ったのは、そのあたりに走りやすさを感じたからです」
どんなシチュエーションでも、するどい走りをみせるエキスパートライダーならではのコメントも飛び出した。
「路面コンディションが悪かったので、やっぱりタイヤがすべるんですよ。とくにタイヤが温まらない。走り出しのうちは何回かヒヤッとしました。ですが、サスペンションがレスポンスよく反応してくれるので、危険を感じることはありませんでしたね。タイヤがすべると、すべった分だけサスペンションが伸びてリカバリーしてくれるので」
サスペンションの応答性向上、すばやい路面追随性はBFテクノロジーのねらいの一つ。その目的はしっかり達成されているようだ。
さて、Ninja ZX-10Rはレースを視野に入れて開発されたモデルだ。サスペンションも見合った性能が持たされている。では、サーキットと速度域の異なる一般公道で、デメリットはないのだろうか?
「基本は高荷重設定。硬いか、柔らかいかといえば硬めのサスペンションですが、乗り心地が極端に悪いということはありません。性能の高さは安全性に直結します、そのまま公道を走って問題ありません。公道走行に限定するのなら前後ともダンパーの効きを少し弱めると、サスペンションの動きがわかりやすくなって、より楽しく走れるでしょう。少々減衰を弱めたくらいでは、コーナーで腰砕けになったりはしません。完成度の高いサスペンションですから大丈夫。安心感を持ちながら攻められる足まわりです」
BFRC-lite
スーパーバイク世界選手権で不動の王者として君臨するカワサキ・レーシング・チームのマシンは、ショーワ製サスペンションユニットを使用。BFRC liteは、そこでつちかった技術を一般用にフィードバックしたもので、市販車では2016年式Ninja ZX-10Rに初採用された。形状の違いはあるが、減衰力調整機構をダンパーピストンから独立させる発想は、リヤショックユニットもフロントフォークも変わらない。
BFF
リヤと同じく、バランスフリー技術を採用したフロントフォーク。基本の形は、インナーチューブ径Φ43㎜の倒立フロントフォーク。減衰力調整機構をボトムエンドに装備するため、一般的な倒立フロントフォークのようにインナーチューブ内にカートリッジダンパーを持たない。また、フォークオイルは減衰力発生だけでなく、インナーチューブとアウターチューブの潤滑の役割もになうが、BFFでは両者を独立させ、ダンパーオイルの長寿命化と減衰力の安定化を図っている。
調整幅
フロントフォーク | 伸側:4と1/2回転 |
---|---|
圧側:4回転 | |
リヤショック | 伸側:4回転 |
圧側:4と1/2回転 |
1名乗車メーカー推奨標準値
フロントフォーク | 伸側:右に締め込んだ位置から2と1/2回転戻し(反時計回り) |
---|---|
圧側:右に締め込んだ位置から3と1/2回転戻し(反時計回り) | |
リヤショック | 伸側:右に締め込んだ位置から2と1/4回転戻し(反時計回り) |
圧側:右に締め込んだ位置から1回転戻し(反時計回り) |
試乗モデル/2020 Ninja ZX-10R KRT EDITION
淺倉 恵介
フリーランスライター&エディター