ヨシムラ
“車体セッティングの第一人者”こと、戸田 隆氏の守備範囲は広大。当然、ブレーキにも造詣が深く、そのこだわりはハンパではない。その戸田氏が、2020年モデル Ninja ZX-10Rに純正装着されるブレンボ製マスターシリンダーをインプレッションする。
抜群のコントロール性とダイレクトな操作感
レーシングライダーにとって、ブレーキングは勝負どころ、神経質になるのは当然で、誰もがこだわりを持つ部分だ。だが、その中でも戸田氏のブレーキに対する要求は大きい。ブレーキのタッチを追求するため、自らの手でブレーキレバーを削って、形を整えたという経験もあるという。
その戸田氏が、Ninja ZX-10Rで走り終えての感想はというと
「このマスターシリンダーいいなあ。ノーマルですよね? 驚きました」
と、このとおりである。
「ブレンボのラジアルポンプですから、単体での性能は悪くないはずだと考えてはいました。ですが、Ninja ZX-10RはABS装着車です。その点が気になっていました。マスターシリンダーとブレーキキャリパーの間にABSユニットが入ると、ブレーキのフィーリングが曖昧になることが多いんです。Ninja ZX-10RのABSは電子制御式で、ABSユニットの介入の仕方も複雑でしょうし、試乗前はあまり期待できないと考えていました。ですが、実際はダイレクト感があって、ABSレスのようにコントロールできました」
具体的にどの部分が気に入ったのだろうか。
「自分はストローク感のあるマスターシリンダーが好きなんです。レバーのストローク量がしっかりとられ、にぎり始めからフルブレーキまで、しっかりとコントロールできることが必要です。このマスターシリンダーは、ストローク感がちょうどいい。
レバーをにぎりこんでいくと急に制動力が立ち上がるマスターシリンダーがありますが、それではブレーキ性能として都合が悪い。その点、Ninja ZX-10Rのマスターシリンダーは、制動力の立ち上がり方がリニアでコントロールしやすい。コントロール性というと、ブレーキをかける時のことばかり気が向きますが、リリースする時も重要なんです。ブレーキを緩める時に、イメージどおりに制動力が抜けるのが理想です。その点でも、かなりレベルが高いですね。
ブレーキはシステム全体で評価すべきで、パーツ単体で語るものではないと考えています。その点を考慮しても、高性能なマスターシリンダーと言って差し支えないでしょう」
試乗モデル/2020 Ninja ZX-10R KRT EDITION
淺倉 恵介
フリーランスライター&エディター