カワサキ創成期のエピソード

カワサキ=川崎重工業株式会社は、今でこそ世界に名だたる巨大カンパニーだが、その創成期には当時ならではのストーリーがある。この企画は、それらストーリーの当事者たちに直接話しを伺った回顧録である。

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カワサキが生き残るためには、アメリカ市場での成功しかない。今回は、その目標を達成するために戦った若きカワサキマンたちの奮闘と、そのなかで生まれた名車A1に迫る。

1966 kawasaki A1
[1966 A1]クラス最強・最速のコンセプトのもと開発された今回の主役A1。そのスタイリングはスポーティな雰囲気をかもし出している

アメリカへ

B8のおかげで、なんとか首の皮一枚でつながったカワサキだが、それだけではメーカーとして成り立たないのは明らかだった。ホンダ以下、ヤマハ、スズキも、日本市場を出てアメリカに販売会社を作り、いろんな車両を持って行って実績を上げているようだ。だが、わがカワサキは、安宅産業、日商など当時の総合商社とそれに連なる各地域の現地代理店に販売を任せているだけ。目黒の500cc・K2をボアアップした650ccのW1を輸出してはみたものの、日本ではいまだに根強いファンを持つものの、アメリカのフリーウェイではまったく不評で、市場占拠率など話にもならない体たらくだった。

「カワサキが生き延びるには、やはり日本を出てアメリカ市場に取り付き、そこで伸びるしかない。そのためにはまずアメリカ人が好むバイクを持って行かねば」

神戸製作所の多くの人々がそう考えながら具体案はないなかで、松本博之は、命令する人もいないまま、1人勝手にアメリカ向けのバイクを考え始めていた。B8の場合、山本福三常務からの直接指示に基づき、北海道でじっくり市場調査をして構想を練った彼だった。だが依然赤字続きのなかで、課長、係長などを飛び越して、一係員の彼にアメリカ出張など認めてもらえようはずもない。B8の実績をふまえて川航は「単車事業への本格進出」を模索しており、とりわけ開発部門は大増員で、彼の上にも周囲にも大勢の技術者が増えており、それとともに“年功序列”もうるさくなりつつあったのである。B8誕生の恩人だった山本常務は、過労のためすでに亡くなっており、B8に続くA1、H1(500SSマッハⅢ)、Z1などのカワサキ快進撃を見ることもないままだった。松本は、手に入ったアメリカ地図を眺めながら、フリーウェイなるものを想像するしかなかった。

カワサキでも、浜脇洋二氏のシナリオで、遅ればせながらロサンゼルスとシカゴに駐在員事務所を設け、シカゴに部品会社を設立する構想も進んでいたが、松本がそれらの人々と話す機会もなかったのである。

手探りの模索のなかから

「アメリカを走る車両を作りたい」の思いだけで、B8T、B8Sの設計が終了した1964年、松本の手探りが本格的に始まった。ヤマハの250cc・YDS3が好評らしい。スズキはそれよりも速い250ccを発表するようだ。フリーウェイを走るには、最低250ccは必要だろう。

2サイクル・マンとしてやはり2サイクルでやりたい。そして2気筒だろうな。馬力をかせぐため、また新奇性を好むらしいアメリカ人をひきつけるためにも、GPレーサーでは盛んに使われているが量産車には例のないツイン・ロータリーディスクバルブを採用しよう! スズキの新機種T20(アメリカではX6)は6速らしいが、5速で沢山だし、ニュートラルを探しやすくするため、それをボトムに持って来る手がある。リッター120ps以上と、これもレーサー並をねらい、最高速、加速ともこのクラスでダントツとする。

松本の手探りは次第に具体的になってきた。次の“第3話”で述べる百合草三佐雄の“百合草テスト”の結果、量産直前、急きょアルミ・シリンダーを採用することになるのだが、その冷却性向上のため、ライナーとアルミの境を化学的に密着させて放熱効果を上げるアルニオン方式を初めて採用することもした。アルミシリンダーは正式には“百合草テスト”から具体化していくのだが、実は松本は「このバイクにはアルミシリンダーしかない」と最初から考え、公認されていた鋳鉄シリンダーと並行して、これも独断で密かに検討を重ねていたから、直ちに対応できたのである。2サイクルでは初めて、クランクシャフト大端給油方式を採り入れ、4サイクル並のクランクピンからの給油も行なった。B8でテスト済みの三重濾過エアクリーナーも付けた。かくて31ps/6,000rpm、リッターあたり124psのエンジンが完成し、並行してそれを支える車体、その魅力を高めるデザインも進むのだが、松本として設計上とくに苦労したのは次の4点だった、という。

①ツイン・ロータリーディスクバルブ採用にともない
  1. 発電機、ポイントの形状と配置
  2. エア通路確保と左右のバランス
②エンジン性能確保のため
  1. 回転数を上げるため、大端ベアリングの焼き付き対策として、大端給油とニードルベアリングのケージの鍍金、ローラーのクラウニングなど
  2. シリンダーのアルミ化と冷却性の向上

なお、このクルマの走行テストは、工場内の小さなテスト・コースと工場周辺の市街地でしか行なうことができず、これらは伝え聞くアメリカのフリーウェイからは程遠いもののようで、“百合草テスト”はこの面からも必要不可欠だったのである。

種子島 経

1960年、東京大学法学部卒。川崎航空機工業(現・川崎重工業)に入社。1966年からアメリカにわたり、Z1の開発にたずさわるとともに市場開拓に尽力した。当時の苦労話をまとめた書籍をはじめ、数冊を執筆している




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