水冷エンジンにアルミフレーム、そしてフルカウルが当たり前の1993年の鈴鹿8耐に、1台のネイキッドが参戦した。大阪のコンストラクター、月木レーシングが製作した空冷エンジン、鉄フレームのゼファー750だ。
高性能マシンに果敢に挑んだ月木レーシング渾身のマシン
ゼファー750をベースに、当時の鈴鹿8耐マシンに課されたTT-F1レギュレーションに沿って改造がほどこされた月木レーシングのマシン。ゼファー750の面影はエンジンの形状やフレームなどに残るが、タンクや外装などの変更により大きくイメージを変えた形となっている。これはTT-F1の改造範囲が広く、エンジンは市販車両のクランクケースを使えば、排気量を上げない範囲内で改造ができたこと、そしてフレームや外装などはオリジナルで製作したものを使うことができたからだ。
真夏の耐久レースに出場するにあたり、特徴的なビキニカウルは熱対策の工夫がほどこされたものとなっている。空冷エンジンのため、まずはオイルクーラーをフレッシュエアで冷却できる車体先端に配置。オイルクーラーを通過した熱風はカウル内をとおり左右に排出され、エンジンやキャブレターに導かれないようにされている。また、タンク下にはラムエアダクトが設けられており、走行風を取り入れることができるようにしている。なお、タンクは容量確保とエンジン下に冷却用の空間を設けるためにアルミで製作したオリジナル形状となっている。
フレームの形状はノーマルと同じながら、剛性アップと軽量化のためにクロモリ鋼で製作したが、決勝レースの転倒でダメージを負ったため、画像のフレームはスペアマシンに使われていたものとなる。
ビキニカウルの装着や、タンクやシートカウルの変更により大きく印象を変えたゼファー750。タンクは24ℓの容量確保とエンジンまわりの冷却効果を考慮した形状となっている
マシン先端に配置されたオイルクーラーが特徴となるフロントまわり。ビキニカウルはオイルクーラーからの放熱を考慮した形状となっている。テールカウルは空気抵抗を考慮した形状だ
フロントフォークは一般的なレース用では長さが足りず、ショーワによるワンオフ品を装着。ホイールはPVMで、鋳鉄ローターにAPロッキードキャリパーの組み合わせ
ZXR750Rのメーターを流用したシンプルなハンドルまわり。幅広のアップハンドルに純正流用のブレーキマスターシリンダーやクラッチレバー、スイッチボックスが使われているのがわかる
当時から装着が必須だったステアリングダンパーはオーリンズを用いている。しかし、装着場所には苦労したそうで、タンクにそのためのスペースを空けて装着しているのだ
オーバーサイズピストンなどを使い115㎰を発揮したエンジン。ミッションはGPZ400R用レースキットを流用して6速化、クラッチはZXR750R用を使う
シンプルなバックステップはもちろん月木レーシング製となる。なお、フロントスプロケットはリヤホイールにリム幅6.00を装着しているため、10㎜オフセットしてチェーンラインを確保する
モックアップから型を起こしたというオリジナル形状のシートカウルはFRP製となる。レース後には多くのゼファーユーザーから市販品の問い合わせがあったというが、一般には販売されなかった
シートカウル同様にモックアップから型を起こして製作されたビキニカウル。ヘッドライト下の開口部にはオイルクーラーが備わる。左右のダクトはオイルクーラーの熱を排出するもの
サイレンサーは月木レーシングのマフラーブランド、デクスターのレース専用品でカーボン製を装着している。バンク角を稼ぐために上にカチあげられているのが特徴となっている
レーシング・デクスターと名付けられたオリジナルブランドのマフラーはフルチタンのエキゾーストパイプで、4-1方式で集合させている。なお、熱対策のためにオイルポンプも変更されている
スイングアームは純正スイングアームをそのまま流用し、スタビライザーを追加して剛性を上げている。ツインのリヤショックはアドバンテージ・ショーワのワンオフ品を装着している
AMAにZRX1100で挑んだ月木
月木レーシングは鈴鹿サーキットで開催されていたNK1にてZRX1100でチャンピオンを獲得後、AMAロードレースが開催されるアメリカのカルフォルニア州にあるウイロー・スプリングス・サーキットにZRX1100を持ち込んだ。月木氏いわく「AMAでネイキッドマシンを走らせたかった」と参戦したレースはフォーミュラー・エクストリームだ。参戦車両の多くはGSX-R1000などのスーパースポーツだったが、このレースで40台中14位という成績を残している。
2000年のアメリカ、AMAフォーミュラー・エクストリームに参戦した月木レーシングのZRX1100。基本的な仕様は鈴鹿のNK1でチャンピオンを獲得した時のものと変わらない
ZRX1100はビキニカウルがブラケットに取り付けられているため、ハンドル操作が重くなる上に風の抵抗がハンドルにも影響する。そのため、フレームマウントに変更している
エンジンはコワースのZZR1100用ピストンを用いて1,136㏄へとボアアップし、カムシャフトはヨシムラのZZR1100用ST-1に変更している。なお、クランクはGPZ1100だ
スイングアームは剛性のある角断面のワンオフ品で、スタビライザーを追加することでさらに剛性をアップさせている。ノーマルよりも全長を伸ばして車体の重心位置を変更している