ヨシムラ
異端のライムグリーン
「KR250」というバイクには2種類ある。1つは、コーク・バリントンやアントン・マンクのライドで圧倒的な強さを見せ、世界GPにカワサキ黄金期を築いたワークスマシンのKR250。そしてもう1つが、そのワークスマシンの技術を受け継いだ市販モデルのKR250である。
市販のKRが発売されたのは84年。最強のワークスマシンの名称をそのまま受け継ぐレーサーレプリカ登場とあって、当然ながら大きな注目を集めることになった。国内発表の行なわれた富士スピードウェイには、清原明彦氏を筆頭に南アフリカからコーク・バリントンが来日するなど、カワサキが賭ける熱意は誰の目にも明らかだった。
流線型のカウリングをまとっていたレーサーに対して、市販KRは若干、GPZ系の匂いがするエッジの効いたデザイン。スタイルこそ違いはあるが、メカニズムにはレースでつちかわれたノウハウがふんだんにフィードバックされてていた。
とにかく個性的な車体構成が特徴で、国産としては初のタンデムツインエンジンを搭載、250ccながら45psを叩き出す実力を発揮した。フレームはメインフレームとテールフレームをアルミキャスティングパネルでボルトオン構成するという3ピースシステムで、強度部材のほとんどにアルミを採用し軽量化も図られていた。フロントフォークにはブレーキング時に沈み込みを制御するAVDS、フロントホイールサイズは時代を反映する16インチと、まさにレーサーレプリカの名に恥じない当時最高の技術で固められたマシンであった。
しかし個性的すぎるスタイリングと「乗ってみればツアラー」的な要素も持ち合わせており、カワサキファンからは大きな人気を得られなかったことも事実。名車たりうる要素は十分に持ちながら、広く受け入れられることのなかった不運な車両であった。
KR250 SPEC
●全長×全幅×全高:2,035×685×1,185(mm) ●軸間距離:1,360mm ●車両重量:133kg ●エンジン形式:水冷2ストロークロータリーディスクバルブ直列2気筒 ●排気量:249cc ●ボア×ストローク:56×50.6(mm) ●最高出力:45ps/10,000rpm ●最大トルク:3.7kg-m/8,000rpm ●燃料タンク容量:18L ●発売当時価格:49万8,000円