ヨシムラ
心臓に流れるニンジャの血
カワサキ・アメリカンの歴史において、「LTDシリーズ」を抜きに語ることはできないだろう。79年に登場したZ400LTDに代表される、ティアドロップタンクにプルバックハンドル、段付きシートといったスタイルは80年代に一大ブームを巻き起こした。これが今日の「アメリカン」というジャンルの礎となったことは間違いない。
当時の「アメリカン」は、ハーレーダビッドソンをイメージさせるようなVツインエンジンをあえて採用せず、何とか日本ならではの方向性を模索していたのが特徴的だった。EN400ツインがリリースされたのも、そんな時代のことである。
EN400は、生産中止となっていたZ400LTDの後継機種。新たに新設計の水冷DOHCパラレルツインを引っさげての登場であった。これがGPZ900Rの4気筒エンジンを半分に割った、通称「ハーフ・ニンジャ」と呼ばれるエンジンである。欧米向けにリリースされたLTD450は、まさに900の半分の排気量だったが、国内用のEN400にはスケールをダウンして搭載した。
このエンジンはニンジャの血を受け継ぐだけあり、ツインらしからぬ元気な吹け上がりが自慢。最高出力も45psと十分にパワフルで、スポーツ走行も楽しめるモデルであった。しかしEN400は、LTDシリーズのように一大ブームを築くことはできなかったのである。
88年、ホンダからスティードが登場。「アメリカンというジャンルにおいて、多くのユーザーはスポーツ性より重厚なスタイリングや乗り味を求めている」という現実を販売実績で証明したのである。
EN400は細かな変更を受けながら94年まで販売されたが、市場から注目されることのないまま去っていった。これまでに紹介した多くのマイノリティたちと同様、孤高の道をたどっていくのである。
兄弟車
EN400と同年にリリースされた兄弟車がGPZ400S。共通のエンジンを搭載したスポーツモデルで、こちらはなんと50psを発揮。4気筒全盛の時代にあえて2気筒で挑んだ意欲作だった。このエンジンはのちにEX-4やKLE400へと受け継がれるのだが、これらのマシンもクラスを超えた高い走行性能を発揮。「ハーフ・ニンジャ」の実力を存分に見せつけた。
そして「バルカン」へ
EN400は90年にマイナーチェンジ。「バルカン400」と名前を変え、よりアメリカン色が強調された。しかし市場の「重厚さ」や「味わい」を求める気運が衰える気配はなく、ついに95年には新型機種が投入される。「バルカン」は名前だけを今日に残し、ハーフ・ニンジャ時代に幕を下ろしたのである。
EN400TWIN SPEC
●全長×全幅×全高:2,195×835×1,225(mm) ●軸間距離:1,490mm ●車両重量:184kg ●エンジン形式:水冷4ストロークDOHC4バルブ2気筒 ●排気量:398cc ●最高出力:45ps/9,000rpm ●最大トルク:3.4kg-m/8,500rpm ●発売当時価格:51万円