ヨシムラ
この企画はライディングポジション、ミラー、シート、サスペンションなど、ある特定の機能や装備をインプレッションするという企画だ。“一ヶ所だけの感想で2ページも語れるのか?”といった心配もあるが、意外と語るべきネタは多い。
ダートでも怖くないフロントフルブレーキ
一般道路を走行する時、オンロードモデルはタイヤがすべることはまれなのに対して、オフロードモデルはタイヤがすべることはめずらしくない。オフロードを走行している時には、急ブレーキによる予期せぬスリップの他、タイヤをあえてスライドさせて走行することもある。そのようなオフロード走行においてABSがどのように影響するのか、KLX230で試してきた。
ABS作動時のタイヤロック
現在のABS付オンロードモデルに関しては、フルブレーキしてもタイヤはロックすることほとんどなく、グリップしつつも急激に減速していくことが多い。これに対してKLX230の場合は、ABSが作動してもタイヤのロックが完全に防止されるわけではなく、ロック→グリップ→ロック→グリップ…、といった感じで断続的にロックする。この作動具合はリヤブレーキ・フロントブレーキともに同じで、オンロード走行でもオフロード走行でも変わらない。
KLX230に採用されたABSは、上記のように作動する。では、時としてタイヤのスライドが役立つオフロード走行において、この作動がどのように影響するのか。一般的にオンロードモデルでは、ABSが作動すると制動距離が長くなる。KLX230でオフロードを走った時も同じこと。したがって、コーナー直前で強くブレーキをかけてコーナーを曲がっていくようなハードな走りをした時、バイクが予想以上に進んでしまい、コーナリングしにくくなってしまった。さらに、タイヤが完全にロックしないので、テクニックが並の僕では、ブレーキターンもできなかった。
怖気づくようなダートの急坂でも断続的にロックして車体を安定
このようにオフロードをハードに走ろうとした時、ABSがよくない影響を及ぼしてしまうことがある。でも、ABSはオフロード走行を邪魔する機能と考えるのは早計すぎる。意外な場面でABSが有効に働いたのだ。それはオフロードの長い急坂だ。そんな坂をカッ飛んで下っていけるようなツワモノならともかく、僕の場合、ローギヤで強いエンジンブレーキをかけたり、レバーやペダル操作でブレーキをかけたりしながらズルズルと下っていくしかない。その時、ABSが作動するとロック→グリップ→ロック→グリップ…、とタイヤが制御されるので、タイヤがすべりながらも非常に安定して、まっすぐにゆっくりと下っていくことができた。ちょっとおじけづくようなオフロードの急坂でもタイヤがすべって転倒することはなく、絶大な安心感が得られた。
急ブレーキをかけた時も同じこと。試しにオフロードを60㎞/hで走行して、フロントだけをフルブレーキしてみた。それでもフロントタイヤがすべって転倒することなく、安定してバイクが止まった。オフロード走行中にフロントブレーキだけ強くかけるのはかなり恐ろしい操作だ。でも、KLX230の場合、意外と怖くなく、むしろABSが作動する感覚が楽しかったくらい。
タイヤがすべって転んでしまうのではないか。オフロードを走っていると、そんな恐怖心にさいなまれることがある。でも、KLX230に乗れば、その恐怖心は少しは払拭されるだろう。KLX230は一般道路や林道を楽しんだりするモデルだ。前述したコーナリングやブレーキターンは、クローズドコースで効果的な走行方法で、そのようなシチュエーションを攻めるためにABSなしのKLX230Rがある。林道を安全に楽しむために、KLX230のABSはかなり有効な機能といえる。
今回のチェックマシン「KLX230」
KLX230の主なスペック
全長×全幅×全高 | 2,105×835×1,165(㎜) |
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軸間距離 | 1,380㎜ |
シート高 | 885㎜ |
車両重量 | 134㎏ |
エンジン型式・排気量 | 空冷4ストロークOHC 2バルブ単気筒・232㎤ |
ボア×ストローク | 67.0×66.0(㎜) |
最高出力 | 14kW(19㎰)/7,600rpm |
最大トルク | 19N・m(1.9kgf・m)/6,100rpm |
燃料タンク容量 | 7.4ℓ |
タイヤサイズ | F=2.75-21・R=4.10-18 |
価格 | 49万5,000円 |
井田 幸雄
カワサキバイクマガジン編集部員。旅の移動手段としてバイクに乗り始め、オン/オフのツーリングを楽しんできた。約30年のバイク歴のなかで、所有したカワサキ車はスーパーシェルパ、Z1R、そして現在乗っているGPZ900Rだ ■身長:170㎝ ■体重:50㎏