エンジン系統の雑学

カワサキのエンジンに関して、系統ごとに構造や整備など、現場メカニックの視点から細かく解説していく

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ヨシムラ

40年経っても現役でいられる空冷Z系エンジン

バイクの歴史を語るうえで欠かせない名車といえばZ1だ。明石のカワサキから世界のカワサキとなったのは、Z1の高性能ぶりが認められたからで、自他ともに認めるカワサキのザ・レジェンド。そんなZ1が採用したDOHC並列4気筒エンジンは、エポックメイキングだった。

“原点にして究極”と称されるZ1の空冷DOHC並列4気筒エンジンは、リファインされながら後継モデルへ継承されていく。それは、空冷Z系と、ひとくくりにされることもある。デビューからおおよそ40年を経過している空冷Z系だが、イベント会場やミーティングだけでなく、街中でも見かけることが多いほど、いまだに現役で走り回っている。そんな空冷Z系に数多く携わってきたウエマツの栗原弘行工場長によれば、メカニズム的には簡単だけれどよく出来たエンジンだという。

「構造としては、DOHC4気筒エンジンの基本形。設計開発された当時は、最新のメカニズムだったと思います。その後はさまざまなハイメカニズムエンジンが登場するけれど、基本的な構成はZ1より大して進化していないというか。そう考えると、デビューした時から究極の存在だったと思います。整備性にもすぐれているといえ、クランクケースを外さなくても俗にいう腰上の分解整備ができるという点。一人でエンジンの分解整備をしやすい構造だと思います。構成部品も現代的なエンジンより少なく、華奢な感じはないです。分解作業を進めていくと、とにかく頑丈だなというイメージです。たとえば日本よりオイル管理ができていない国から仕入れられてきた車両でも、クランクシャフトがダメになっていることはまれです。つまり、整備環境がシビアでなくても動き続けられるエンジンだといえ、だからこそ現存数というか実稼働数が高いと思います」

ウエマツ 栗原弘行工場長

ウエマツ 栗原弘行工場長
約16年前に入社。2気筒や4気筒エンジンのミドルクラスで経験を積み、空冷Z系を任せられるようになったとのこと。「Zのエンジンは、整備士のスキルとセンスが表れると思います。成果が表れやすいエンジンです」

Z1が生産されていた70年代は、現代のように、ハイレベルな整備施設が普及していなかった時代だ。これは日本だけでなく、海外も同じような事情で、輸出先によっては、オイル交換をするという概念がなく、エンジンオイルをつぎ足して走らせている国は今でも存在する。そのような環境は、バイクにとっては劣悪だが、それでも大ダメージを受けず現存している車両が多いことに、空冷Z系エンジンのタフさを改めて実感させられる。しかし、性能を維持していくうえでは、空冷Z系だからこその難しさもあるとか。

「滲みや漏れを含めたエンジンオイル管理と、各部の調整です。構造がシンプルな分、キチンと整備しなければ不具合を治せない。とくにZ1からZ1000にかけては、カムチェーンまわりや各部ベアリングの管理がコンディションの明暗を左右します。それでも調整しやすい構造ですので、納得のいくまで整備ができる。そういう意味では、難しいエンジンだといえます」

栗原さんによれば、丹精込めて組み上あげたエンジンを始動させた時、ヒューンというきれいなメカニカル音を聞くことができれば、整備士としてはこのうえない達成感があるという。それを実現するための具体的な整備ポイントは? 順を追って解説していく。

取材協力ウエマツ
住所東京都八王子市宇津木町728-1
電話番号042-696-6667
URLhttps://www.uematsu.co.jp
KAZU 中西

1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
http://ameblo.jp/kazu55z/
https://twitter.com/kazu55z




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