川崎重工業の水素戦略

カワサキは水素供給のインフラ構築に向けた実証実験や、水素を燃料とした発電施設の技術開発、そして水素エンジンの開発など、多分野において水素事業を展開している。連載企画『川崎重工業の水素戦略』では、二輪に限らず、カワサキの水素事業の現状を紹介する。

[第4回]褐炭 炭田
写真:川崎重工業

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ヨシムラ

カワサキは長年、水素に関する技術を磨いてきた。現在は、水素供給のインフラ構築に向けた実証実験や、水素を燃料とした発電施設の技術開発、そして水素エンジンの開発など、多分野において水素事業を展開している。連載企画『川崎重工業の水素戦略』では、二輪に限らず、カワサキの水素事業の現状を紹介する。第4回目は、第3回までの記事に頻繁に登場した褐炭について説明する。

水素の採取元

水素は宇宙でもっとも豊富にある元素で、地球にも非常に多く存在する。そのため、多くの物質から取り出すことができる。たとえば水はもちろんのこと、化石燃料や下水、プラスチックからも水素を取り出すことができるのだ。しかも、酸素と化学反応させることで発電したり、熱エネルギーとして利用できたりして、その際にCO2も排出しない。つまり、地球上に存在する量が多く、環境にも優しいという、カーボンニュートラル実現に向けて、非常に魅力的な資源といえる。

ただ、水素が取り出せても、とても高価なものとなってしまっては、日常生活で使用しづらくなってしまう。商用化するには価格を抑えることも必要になってくる。そこで、カワサキが所属する技術研究組合、HySTRA(ハイストラ)が注目したのが褐炭だ。褐炭からの水素製造は、数ある水素製造方法の中でも、経済的な方法のひとつなのだ。

経済的に魅力ある褐炭

褐炭は一言でいえば低品位な石炭。つまり、質の悪い石炭だ。水分量が50〜60%と多く、不純物を非常に多く含み、重くかさばる。それでいて発熱量が低い。しかも、空気に触れると自然発火する恐れがあるため輸送や保管に適さず、海外取引は皆無で採取地の利用に限られている。そのため、褐炭自体を資源として考えると、有効性はとても低いのだ。

ただ、その分、一般的な石炭に比べて安価になる。また、埋蔵地は世界に広く分布していて、世界の石炭埋蔵量の約半分を褐炭が占めているのだ。前述したように化石燃料から水素を採取することもできるので、褐炭は水素を取り出せる安価で豊富な資源ということになる。つまり褐炭は、水素の採取元としては、非常に魅力ある資源なのだ。ハイストラは、この褐炭から安価で大量の水素を製造しようと考え、現在の実証実験に至っている。

HySTRAの褐炭採取地、オーストラリア

世界に広く分布している褐炭だが、ハイストラが採取している場所は、世界有数の褐炭の炭田が広がっているオーストラリア南東部、ビクトリア州のラトローブバレーだ。そこに設けられた炭田の広さは、発電設備を含め約6,000haに及ぶ。はるかかなたの地平線まで褐炭層が広がり、地表から深さ250mまで一つの褐炭層があり、さらにその下にも褐炭層が広がっている。日本の総発電量の240年分に相当する褐炭が、ここに存在すると考えられている。

ハイストラは、ここで採取された褐炭から水素を取り出し、日本に運ぶ実証実験を行なっているのだが、カワサキは、褐炭由来の水素を日本に輸入するために、子会社のハイドロジェン・エンジニアリング・オーストラリアをオーストラリアに設立すると、オーストラリア政府の推進を得て、岩谷産業、Jパワー、丸紅などと連携を図り、同じくビクトリア州の港まで水素を運ぶ設備と手段を構築する。

CO2フリー水素への取り組み

ラトローブバレーには、Jパワーなどによりガス化設備やガス精製設備が建造され、褐炭から水素が取り出されている。たまに、カーボンニュートラルのための取り組みとはいえ、発電や水素を製造する時に二酸化炭素が排出されるのでは…、と議論されることがある。事実、そういったケースはめずらしくなく、ラトローブバレーの炭田でも、褐炭から水素を製造する際に二酸化炭素が排出されてしまう。

ただし、この炭田では二酸化炭素を大気に放出しているわけではない。二酸化炭素の排出量を大幅に低減させた方法で製造された水素、いわゆるCO2フリー水素の製造を目指すハイストラは、二酸化炭素を分離して回収する技術を構築し、回収した二酸化炭素をカーボンリサイクルしたり地下に貯留したりしている。こうして水素を製造する際にも、二酸化炭素が大気に排出されることを防いでいるのだ。

このようにしてラトローブバレーで製造された水素は、港で液化されるとカワサキ製液化水素運搬船で、日本に運ばれてくる。

取材協力川崎重工業株式会社
URLhttps://www.khi.co.jp



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