川崎重工業の水素戦略

カワサキは水素供給のインフラ構築に向けた実証実験や、水素を燃料とした発電施設の技術開発、そして水素エンジンの開発など、多分野において水素事業を展開している。連載企画『川崎重工業の水素戦略』では、二輪に限らず、カワサキの水素事業の現状を紹介する。

[第7回]水素ガスタービンによるエネルギー供給実験 ガスタービン発電設備

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ヨシムラ

カワサキは長年、水素に関する技術を磨いてきた。現在は、水素供給のインフラ構築に向けた実証実験や、水素を燃料とした発電施設の技術開発、そして水素エンジンの開発など、多分野において水素事業を展開している。連載企画『川崎重工業の水素戦略』では、二輪に限らず、カワサキの水素事業の現状を紹介する。第7回目は、水素を燃料とした発電施設の実証実験を解説する。

水素発電の有効性

カーボンニュートラルを達成すべく電気自動車(EV)が実用化されているが、電力の供給方法が話題に挙げられることもめずらしくない。というのも、EVを充電するために、火力発電由来の電気を使用する傾向が強いからだ。現在、火力発電の燃料は石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料が主であり、発電時にCO2を発生する。となると、EV自体はカーボンニュートラル実現に向けて貢献しているが、EVを走らせるための電力を発生する手段はカーボンニュートラルに向けた取り組みとはいえないのではないか。そのような議論がなされることもあるのだ。ただし、火力発電自体は発電能力や発電効率などを考慮すると完成された発電技術でもある。そこで注目されているのが、火力発電の燃料に水素を使用することで、カーボンニュートラルな電気を供給しようという動きだ。

カワサキは従来からガスタービン発電設備の開発と実用に取り組んでいて、高い実績を持つ。たとえば2011年の東日本大震災では、各地で大規模な停電が発生したが、停電発生から40秒以内に、停電地域に設置された1,035台の非常用ガスタービン発電設備のうち、1,034台が規定内に稼働し、電力の供給に大きく貢献した。このように発電設備に関して実績のあるカワサキも水素を利用した発電設備に注目し、現在水素発電の実証実験を行なっている。

カワサキの水素CGS

水素を燃料にして発電する実証実験を行なうため、カワサキは水素と天然ガスを燃料とする1MW級ガスタービン発電設備を、兵庫県の神戸ポートアイランドに建設した。神戸市、関西電力、大林組などの協力を得て建設したこの発電設備を利用して、カワサキは現在水素ガスタービンコージェネレーション実証を実施しているのだ。カワサキの水素ガスタービンコージェネレーションシステム(水素CGS)は、水素ガスタービンを稼働させることで、電力と熱をエネルギーとして供給するというシステムである。施設内には、水素ガスタービンの他、液化水素貯蔵タンク、水素供給設備、排熱利用装置、熱交換器など、燃料の保管からエネルギー供給までを一貫して行なえる設備が整っている。

ウェット方式とドライ方式

水素CGSの燃料は天然ガスと水素で、カワサキはウェット方式とドライ方式の燃焼方法による発電と供給を実証実験している。ウェット方式とは、水素の燃焼特性の影響で発生してしまう局所的な高温燃焼によるNOx生成を抑制するために、火炎の高温部に水を噴射する方式のこと。ウェット方式では、水素と天然ガスを任意の混合率で運転することが可能で、水素100%でも天然ガス100%でも、その他自由な割合で燃やすことができる。ウェット方式での実験は2017年から2018年にかけて実施していて、すでに技術的な実証実験は終了している。そして2019年から着手しているのが、ドライ方式の実証実験だ。

ウェット方式では火炎の高温部に水をかけるため、燃焼効率が下がってしまう。そこでカワサキは、発電効率を高く維持したまま、NOx排出量を低減させるため、水を使用せずにNOx生成を抑制するドライ方式の燃焼器を開発する。この燃焼方式は燃料を水素専用としており、カワサキは世界で初めてドライ低NOx水素専燃ガスタービンを開発したことになる。

近隣施設と協力した社会実証

水素CGSで行なわれているのは技術的な実証実験だけではない。獲得したエネルギーを社会的に活用できるかどうかを試す社会実証も行なっている。前述した水素ガスタービンコージェネレーション実証の“コージェネレーション”とは、発電した際に生じる排熱も回収するシステムのことで、これにより発電により獲得した電力と熱をエネルギーとして活用しようというものだ。

水素CGSの立地条件に注目してほしい。発電施設でありながら市街地に設置されているのである。これには大きな理由があり、水素CGSで得られた電力と熱を、近隣の病院やスポーツセンター、国際展示場などに供給しているのだ。そのため、発電施設の稼働に対する近隣からの反対もない。水素100%を燃料として得られたエネルギーも供給しており、市街地に水素100%を燃料としたガスタービン発電施設を設置して、そこで得られたエネルギーを近隣施設に供給するというシステムは世界初の取り組みとなる。カワサキは現在、このような水素を活かした社会実証を行なっているのだ。

取材協力川崎重工業株式会社
URLhttps://www.khi.co.jp



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