ヨシムラ
カワサキを代表するブランドといえばNinjaとZとWとだ。NinjaとZはいまもネイキッドスポーツとして進化を続けているが、Wはその歴史の幕を閉じようとしている。70年代にW1SAユーザーとしてバーチカルツインの躍動感に魅了されたボクとしては、寂しい思いがぬぐえない。
Wといえばご存知のように、メグロを受け継いだW1から歴史がスタートした。1966年のことである。その後W2、W1S、W1SAと変遷していき、W3を最後に1974年に姿を消した。
それから25年、新たなモデルとしてW650が1999年に登場した。もちろん従来のWとはエンジンをはじめすべてが別モノだったが、造形美にこだわったクラシカルなスタイルは多くのファンを獲得した。しかし、ロングストロークの空冷バーチカルツインは、鼓動感は伝えながらも全体にスムーズなエンジン特性だった。かつてのWとはまったく異なるパワーフィーリングとなっていた。排ガスや騒音規制に対応させたうえで安定した高速走行性を発揮させていたのだ。W1SAのあの強烈な鼓動を体感していたボクには、エンジンのフィーリングについてはちょっと拍子抜けの印象があった。
2000年、W650の広告撮影のため、イタリアのシチリア島へ行った。パレルモ市内では混雑する市場をひとりでW650を押して歩いた。その様子をカメラマンが望遠レンズで撮影したのだが、現地の人に怪訝そうに見られてちょっと怖かった。恐怖心を払いのけるためボクは、野菜を売る店のオヤジさんに片言の英語で話しかけた。もちろん満面の笑みでだ。するとオヤジさんは「それは新しいバイクかい?」というように受け答えが始まり、周囲にいた人たちも会話に加わるようになり、雰囲気が一気に明るくなった。「ナカ〜タ」と呼ばれたボクも、ホッと胸をなで下ろしたのである。
翌日、イタリア人ライダーが合流し、いよいよ2台での走行となった。市内走行の撮影が終わると、そのままアウトストラーダへ。一応制限速度はあるものの、大半の車が150km/h以上のスピードで走っている。そんななか、W650を全開で走らせるが車に抜かれながらの走行となった。まあそれは仕方がない。しかし、シチリアで乗ったW650は、明らかに国内仕様よりパワフルに感じた。
パレルモ市内で初めて乗ったときにも感じたのだが、マフラーから吐き出されるサウンドには迫力があり、鼓動感の強いパワーフィーリングだった。日本仕様と性能に違いがあったのかどうかはわからない。けれども、イタリアで乗ったW650は、かつてのW1のフィーリングに近いものを感じたのは事実だ。法律は国によって異なる。排ガスや騒音規制が日本とイタリアとでは違っていても不思議じゃない。だから日本仕様とイタリア仕様は異なっていたのかもしれない。データがないのでなんともいえないのだが、はっきりしているのは、イタリア仕様のほうが走りが楽しかったということ。
振り返れば、もしW650がイタリアで乗った仕様と同じフィーリングだったら、W1をイメージしていたユーザーを喜ばせた可能性がある。そして日本国内でのファンはもっと多かったかもしれない。これが2つの国で乗り比べたボクの正直な感想だ。
栗栖国安
東京生まれの昭和世代バイク乗り。プレスライダーから広告制作会社勤務を経て、27歳でバイク雑誌業界に足を踏み入れる。以来、ニューモデル試乗からツーリング紀行まで幅広く(?)活動している。