ヨシムラ
錆びている、固着している、伸びているのは問題外だが、張りすぎもしくはゆるみすぎでも寿命は極端に早まる。とくにGPZ900Rの場合はスイングアームがよく動くので、張り調整にはちょっとしたコツが必要だったりする
ちょいとゆるんでる? ぐらいがちょうどいい!?
GP生まれのチェーン調整機構であるエキセントリックカラー式。カワサキならではのユーザーフレンドリーメカニズムでもある。過去に私が乗り継いできた数々のカワサキ車にも、この機構が用いられていた。エキセントリックカラー式は、片側のカラーを回転させればもう片方も連動する。よって一般的な引きまたは押しタイプのチェーンアジャスターと異なり、左右を交互に確認しなくとも自動的に正しくかつクイックなドライブチェーンの張り調整を可能とするアイデア装備だ。
GPZ900R=ニンジャの場合、取扱説明書には30〜40mmがゆるみ量の標準値となっており、使用範囲は30〜45mmとなっている。ちなみに、使用範囲の表記が追加されたのはA11以降である。過去の所有車両では、ZZR1100(D9)は標準値が35〜40mm、使用範囲は35〜45mmとなっていた。他社の同クラスバイクに比べ、ゆるみ気味の設定値だと知り得るだろう。その理由については定かではないが、エキセントリックカラー式=偏芯機構が少なからず関係していると推測できる。一般的なチェーンアジャスターを採用するスイングアームでは、支点となるピボット部から見てアクスルシャフトは延直線上で移動する。一方エキセントリックカラー式を採用するスイングアームでは、アクスルシャフトの位置が変位するからだ。
ここからは私の経験上、有効だった事例をベースに話を進める。ニンジャのドライブチェーン調整において言えば、使用範囲数値を見て可能な限りゆるみ気味の状態にセットすることが低フリクションにつながり、ドライブチェーンはもちろんのことスプロケットへの負担も少ない。実際の運用上では、サイドスタンドにて停車させている状態において、他の一般的なチェーンアジャスター式の車両と比較し、ゆるみ量が多いのでは?と感じるレベルでちょうどいいようだ。事実この調整レベルを維持したところ、ドライブチェーンおよびスプロケットは、走行約3万km使用したところで限度領域に差しかかった。逆に別のニンジャではタイト気味に調整したところ、走行約1万5,000kmをすぎたあたりで使用限度領域に突入した。単純比較で倍の差が出たというわけだ。
リヤホイールを17インチ化していたニンジャでは、よりゆるみ気味の調整としていた。その理由はスイングアームの垂れ角にあるのだが、張り作業のときに注意するのは、スイングアームの垂れ角ベースのゆるみ量調整のみならず、スイングアームピボット位置とリヤアクスルシャフトの位置から導き出される適量に合わせることである。機構的にはスイングアームピボット位置とリヤアクスルシャフト位置が、地面に対し平行となるところでドライブチェーンのゆるみ量が最小となる。この時点で若干のゆるみがないと張りすぎとなってしまい、ドライブチェーンやスプロケットはもちろん、スイングアームピボットやドライブシャフトへも大きな負荷を与えることになる。
ことニンジャにおいては、ノーマルの18インチ状態においても、17インチ化したときの調整方法が参考になるだろう。ニンジャのスイングアームは、ロードスポーツモデルとしてはかなり大きくストロークする部類にあたるため、他メーカー車から乗り替えたライダーは、とくに注意すべき整備要点であるといえよう。
チェーン清掃は基本中の基本
ドライブチェーンの寿命を延ばすには日ごろのコンディション維持が重要。たとえば雨天走行後の注油は必須といえる。だが使用距離が増えるにつれ、ローラーとプレートの隙間に不純物が蓄積するだろうから、それをしっかりと除去したうえで注油する作業も必要となる。この清掃作業に専用のチェーンクリーナーを用いることは言うまでもない。注油する際はローラーとリンクプレートの隙間に浸透させるようにすることが鉄則。その後、ローラーを指で動かしスムーズに回転するかも確認する。ローラーが動かないもしくはリンクプレートが固着している場合は、思い切って新品に交換してしまおう。
KAZU 中西
1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
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