EVと水素エンジンへのカワサキの挑戦

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ヨシムラ

カーボンニュートラル実現に向けた3モデル

10月6日(水)に、カワサキが実施した事業方針説明会にて、カーボンニュートラルの実現に向けた2機種の二輪研究車と、1種類のエンジンが展示された。前者2機種はBEV(バッテリー式電動バイク)とHEV(ハイブリッド式バイク)で、後者は水素エンジンに向けて研究中の二輪用直噴エンジンだ。カワサキはこれまで、他の国内二輪メーカーに比べて、カーボンニュートラル実現に向けてのアピールは少なかったが、先日、トヨタ自動車と合同記者会見を実施したのに続いて、今回、これらの研究モデルを発表するなど、ここにきて、脱炭素に向けての取り組みを立て続けに発表している。

カーボンニュートラル実現に向けた動力源として、大別してEVと水素エンジンが挙げられるが、昨今の発表から、カワサキは両方の開発を進めていることがわかる。現在、一般的には、二輪も四輪も水素エンジンよりEVの方が進行しているが、将来、時代がどのように動くか不透明なところもある。そのため、多くの選択肢を持つことは、企業にとって大変重要なことといえる。以下に、今回の事業方針説明会で展示された3モデルを解説する。いずれのモデルも現在は研究段階だが、市販を視野に入れて開発が進められている。

EV二輪研究車

カワサキは近年、EICMA 2019でEVスポーツモデルのEVプロジェクトを出品したり、EVプロジェクトの走行シーンを映した動画を配信したりしている。事業方針説明会では、カワサキが現在研究しているEV二輪研究車として、このEVプロジェクトが展示された。EVプロジェクトはバッテリー式電動バイクで、CHAdeMoスタイルの急速充電システムを介して充電するか、100V充電システムを介して充電する。特徴的なのは、マニュアルミッションを備えている点で、ミッションには4速を採用する。また、EVらしく回生ブレーキも採用していて、左ハンドルには回生ブレーキ用のレバーを配置している。一般的な機械式ブレーキも採用しているので、減速時は回生ブレーキと機械式ブレーキを併用することとなる。

HEV二輪研究車

現在カワサキが研究しているEVとして、EV二輪研究車と並んで、HEV(ハイブリッド式バイク)二輪研究車が展示された。ハイブリッドシステムは大別してマイルドハイブリッドとストロングハイブリッドに分けることができる。文字通り前者は低電圧で駆動し、後者は高電圧で駆動するハイブリッド車のこと。マイルドハイブリッドは、ガソリン車にも搭載されているオルタネーターやセルモーターなどを、駆動用に使えるようにしたシステムで、ストロングハイブリッドは新たに搭載した電動モーターに高電圧をかけることで、エンジンを切って電動モーターのみで走行することができるシステムだ。今回展示されたHEV二輪研究車は、後者のストロングハイブリッドとなっている。

ストロングハイブリッドを構成する主要部品は、電動モーター、インバーター、駆動用バッテリーで、HEV二輪研究車は、既存のエンジンにこれら主要3部品を追加したパワーユニットとなっている。電動モーターはシリンダーヘッド後方、インバーターはシリンダーヘッド左上、駆動用バッテリーはシート下に配置されている。駆動用バッテリーは48Vだが、これは電動モーターを駆動させるためのバッテリーであり、通常の12Vバッテリーも搭載する。なお、HEV二輪研究車は既存のモデルをベースとしているが、駆動用バッテリーが追加されるなど重量が変わるため、フレームは作り直されている。また、電動モーターは水冷式なのだが、エンジンの冷却経路とは独立していて、専用のラジエターも装着されている。

クラッチにも注目したい。クラッチ操作を制御するユニットを搭載していて、レバー操作なしにギアチェンジが可能となっている。現在でも同様のシステムとして、クイックシフターが存在するが、HEV二輪研究車に採用されるクラッチシステムは、クイックシフターとは異なるシステムのようだ。

カワサキによれば、ガソリン車でいうところの大中排気量モデルに関しては、航続距離を長く設定できるという点などで、バッテリー式電動バイクよりハイブリッド式バイクとすることにメリットを感じている。

水素エンジンの研究に向けた直噴エンジン

EV二輪研究車とHEV二輪研究車といった電動エンジンに加え、カワサキは水素エンジンも研究している。事業方針説明会では、その水素エンジンに向けて研究中の二輪用直噴エンジンが展示された。このエンジンは、ニンジャH2シリーズのエンジンをベースとして、燃料噴射システムに手が加えられたもので、現在のところ水素で実動させているわけではないが、今後、このエンジン形式をベースに水素エンジンを開発していく計画だ。

では、どのように燃料噴射システムが変わっているかというと、スロットルボディとサージタンクに設けられた既存のインジェクターに追加して、燃焼室に直接燃料を噴射させるための直噴インジェクターが設置されているのだ。つまり、現段階では3パターンのインジェクターが採用されていることになる。これにより想像できるのが、ガソリンと水素の混焼だ。その場合、インジェクターを3パターン装備するのか、また、どのインジェクターから水素、どのインジェクターからガソリンを噴射させるかなどなど、さまざまな妄想が膨らむ。ただ、カワサキの事業方針説明会で公開されたCGでは、燃焼室に直接燃料を噴射させるインジェクターから水素が噴射されているため、おそらくこの直噴インジェクターから水素が噴射されるのではないだろうか。

これら3種の展示物からは、未来のカワサキには大いに期待できる。いずれ脱炭素社会がやってきても、現在と同じく、操る喜びを得られるモデルを発売し続けていてほしい。

取材協力カワサキモータース株式会社
URLhttps://www.kawasaki-cp.khi.co.jp
井田 幸雄

カワサキバイクマガジン編集部員。旅の移動手段としてバイクに乗り始め、オン/オフのツーリングを楽しんできた。約30年のバイク歴のなかで、所有したカワサキ車はスーパーシェルパ、Z1R、そして現在乗っているGPZ900Rだ ■身長:170㎝ ■体重:50㎏




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