Z900RS・ZRX1200DAEG・ZEPHYR、3車種の開発背景の違い

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ヨシムラ

Z900RS・ZRX1200DAEG・ZEPHYR、この3車種のネイキッドは、いかなる背景のもとに開発されたのか。カワサキ開発者のコメントをもとに解説する。開発背景や時代背景など、それぞれは異なる状況下で生まれている。

空冷Zイメージの2車種と国内専用モデルの1車種

ゼファーが登場したのは1989年、時代はレーサーレプリカ全盛期だった。人気を博していたフルカウルモデルから一転、クラシカルなスタイルをまとって現れた。

「あの時代、レースに参戦することでパフォーマンスを楽しむユーザーもたくさんいました。その反面、ハイスペックなモデルを自由自在に操る場所や機会は限定されてしまい、走行条件という点でユーザーから不満の声が挙がり始めていたのも事実です。そこで空冷素材を活かした70年代のZイメージを含めたモデルを開発したのです」

ゼファーのデザインスケッチ
ゼファーのデザインスケッチ
ゼファーのデザインスケッチ。上はセパレートハンドルやフレームレイアウトなど、市販状態とはかなり異なる。下の写真は市販状態に近い

さらに、カワサキの開発者は以前の本誌の取材で、ゼファー誕生の背景について、次のように言及している。

「事業部内ではZ1復刻の話もあったんです。といってもZ1の現代バージョンではなく、機能から何からすべて70年代のZ1そのものをもう一度ラインナップさせるという企画です。結局のところ実現しませんでしたが、その発想からゼファー開発のヒントが生まれたんです。時代が進めば、Z1は性能という点では高性能バイクに劣ってきます。ただ、Z1は単に性能とかで言い表せない魅力があります。だったら、そういったモデルを作ろうとなったのです」

ゼファーを開発する際、デザインや機能に関して、いくつかの基本イメージが挙げられたが、その一つが“美しい空冷直4エンジンを誇示すること”だった。

「今となっては過去の話ですが、開発当初は『なんで今さら空冷エンジンなんや!』との声が挙がったこともありました。でもゆずれませんでした。幅広のフィンがあり、カムシャフト部分にそそり立ったヘッドカバーもある。そういったエンジンの美しさを空冷エンジンでシッカリ見せていこうと考えたのです」

ただし、単にクラシカルテイストを持たせただけではない。4ポットキャリパーを備えたダブルディスクブレーキを採用したり、別体リザーバータンク付リヤショックを取り入れたりするなど、当時のネイキッドとしては高性能な機能を採用した。

ゼファーの大ヒットに続いて、1990年にはゼファー750、1992年にはゼファー1100がラインナップされる。

「ゼファー750、ゼファー1100とラインナップしていくにつれて、よりレトロなデザインになっているんです。これは、ゼファーを開発するときに、正直どこまでクラシックなカタチにしていいのか、迷いがあったんです。でも、ゼファーが調子よかったので、もっとZ2の雰囲気を出したほうがいいとか、クラシックなデザインのほうがいいとかいろいろな意見が挙がりましてね。それらの意見がゼファー750やゼファー1100に反映されていったんです」

ゼファー1100のデザインスケッチ

ゼファー1100のデザインスケッチで、シングルシートカウルやアッパーカウルを装着するなど、スポーティなイメージに仕上げられている

Z900RSを生んだ、ブランドを活かすカワサキのお家芸

ゼファーの登場から約30年後、2017年の東京モーターサイクルショーでZ900RSが初公開された。ゼファーがZ1のイメージを含みつつ開発されたのと同じく、Z900RSもZ1のイメージを活かしている。

Z900RSは待望のクラシカルモデルだった。2008年にゼファーシリーズが生産終了となり、2016年にはZRXシリーズもファイナルエディションを迎えた。そのため、クラシカルテイストを持つネイキッドが、一時カワサキのラインナップから消えたのだ。対してホンダは2010年にCB1100をラインナップする。カワサキこそ、このようなモデルを出すべきなのでは。一般ライダーからはこのような声も挙がった。ネイキッドのカテゴリーを作り上げたのは、まぎれもなくゼファーだ。クラシカルテイストを持つカワサキ次世代モデルを多くが期待した。そこへ登場したのがZ900RSだった。

「レトロなスタイルを提案することで、さまざまな世代の方々に、なつかしさや新鮮さを感じていただきたいという想いで開発しました」

クレーを製作する段階では、Z750FOURを作業場所に持ち込んで、造形を比較しながら作業が進められた。

「といっても、単にレトロさを追求しただけでなく、最新のコンポーネンツを融合し、現代的に洗練されたデザインとしています」

最新技術を採用する際も、クラシカルな造形にこだわった。LEDヘッドランプを採用するにもヘッドライトのデザインはクラシカルな丸型とし、液晶パネルもZ1のメーターをイメージしつつ採用している。継承した箇所もあれば、追加や変更した箇所もある。Z900RSは不変と変化を見事に両立させたモデルと言えるのだ。

このZ900RSは、世界各国で販売されているが、とくに日本を意識したモデルだと開発者は語る。シートの高さを決める際には日本人の体型を考慮したほか、ETC2.0車載器も標準装備している。

Z900RSのデザインスケッチ
Z900RSのデザインスケッチ
Z900RSのデザインスケッチ
Z900RSのデザインスケッチ。上から順に開発が進行していった。開発途中ではマフラーが2本出しになったり集合タイプになったりするなど、マフラーの形状に関して議論していたことがわかる

ZRX1200ダエグは、箸のようなもの

ZRX1200ダエグは、Z900RSと同じく日本を意識して開発された。というよりも国内専用モデルとして開発されたのだ。このモデルの開発背景はゼファー、Z900RSとは少し異なる。

「このクルマ…、ダエグを大事にしてください。今の自分にはこのクルマしかないんです」

ZRX1200ダエグの発表に先駆け、夜の明石工場の一室で、商品企画担当者は営業スタッフに車両の運命を託した。

ゼファーが登場した80年代はバイクブームであり、Z900RSが登場した2017年は、出せば大ヒットのカワサキ車絶好調の時代で、いずれもラインナップは豊富だった。ところが2000年代前半、環境規制の影響もあり、カワサキは国内市場においてラインナップを縮小する傾向にあった。バリオスⅡやW400/650など、カワサキを象徴するモデルが次々と生産終了になっていった。そのような状況のなか、ZRX1200ダエグは国内専用モデルとして登場したのである。カワサキの歴史のみならず、他メーカーの車両でも、リッタークラスの国内専用モデルというのは、それまでほとんどないといっていい。

「世界的に見ればカワサキのライナップは縮小していなかったのですが、確かに2000年代前半のカワサキは、国内市場においてラインナップを縮小する傾向にありました。しかし、2008年にニンジャ250Rといった新機種を発売開始したように、国内市場も大切にしていこうと決意したんです。そのなかでもZRX1200ダエグを国内市場の柱とすべく作り上げたんです」

実際、ZRX1200ダエグは発売開始から生産終了まで、国内における400cc以上の新車年間販売台数トップ10に常にランクされるほどの人気モデルとなった。

「ZRX1200ダエグは箸のようなものです。欧州では食事をするときナイフやフォークを使うのに対して、日本では箸を使いますよね。刺すのに特化したフォークや切るのに特化したナイフと違って、箸は刺すことも切ることもできる。ZRX1200ダエグも幅広い用途で使うことができるんです」

ZRX1200ダエグ リヤショックとスイングアーム

ZRX1200ダエグにはデザイナーの要望が強く反映されている。レイダウンしたリヤショックは見た目と性能を両立させたもの。スイングアームもZRXイメージを踏襲している

Kawasakiのロゴが入ったクラッチカバー

ZRX1200ダエグ発売開始当初、海外仕様車のエンジンには“Kawasaki”のロゴを入れない方針で展開していた。海外仕様が存在したZRXシリーズも同様だったが、ZRX1200ダエグではロゴが入る

80年代、レーサーレプリカの台頭で、一般ライダーが最新技術を扱い切れないでいた最中、手中に収まる性能となじみのあるクラシカルテイストをねらって開発されたゼファー。一般ライダーの期待にこたえるべく、ブランドをうまく活かすカワサキのお家芸を見せつけたZ900RS。国内市場に柱的存在を作るべく登場したZRX1200ダエグ。それぞれが異なる使命と開発背景を持って生まれてきた。




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