ヨシムラ
カワサキの本格的なレーサーレプリカに採用された、レースシーンからフィードバックされたさまざまなシステム。その中の一つ、K-CASについて今回はクローズアップしてみよう
80年代末期、バイク業界はまさにレーサーレプリカブーム。ZXRと同じ年に発売されたネイキッドモデル・ゼファーは多くのARK店でも「こんな時代遅れのバイクが売れるのか?」と疑問視されていたほど(確かにスタートは悪かったが、徐々に売り上げは伸び、その後ネイキッドブームが訪れる)。それほど当時のバイクに求められる要素において、最新技術は重要であった。
89年、カワサキが国内メーカー最後発として満を持して世に送り出した完全なるレーサーレプリカZXRシリーズ(88年に、スタイルはさほど尖っていないが、スペックにおいてレプリカとして十分なものを持っていたZX-4が発売されている)。国内最高峰のレースTT-F1でその実力が実証された高剛性アルミ製ツインスパータイプのe-BOXフレームを採用し、250/400クラスには、市販ロードモデルでは初となるアップサイドダウンフォークが奢られた。そのスタイリングは、TT-F1、TT-F3を走らせていたレーサーにライト、ウインカーといった保安部品を付けただけといわんばかりの過激なものだった。国内4メーカーともレーサーレプリカの形状は似たスタイルになっていたが、カッコいい悪いは別として、唯一ZXRシリーズのみフロントフェアリングからタンクへと左右2本のダクトが取り付けられており、他メーカーと一線を画していたのだ。このダクトこそがK-CAS、カワサキクールエアシステムの証なのである。
フロントフェアリングに配された左右のダクトから燃料タンクを貫通して、シリンダーヘッド上部へダイレクトに新気を送り込む。そうすることで、ラジエターやエンジンの発する熱に影響されることなく、エンジン温度の上昇を抑え、充填効率の向上や、高速での連続走行時の熱ダレを回避。レーサーレプリカに必要な安定した高出力を得ることを目的としたシステムだったといえる。
その後のモデル、ZZR400、KLEシリーズにも導入され、スポーツ系のモデルに継続して採用されるかと思いきや、レーサーレプリカブームの終焉とともに、その姿を消してしまうのである。残念ながら現行車で採用するモデルは1台もない。まさに、カワサキのレーサーレプリカ時代を彩ったセンセーショナルなシステムの一つだったといえるだろう。
1989 ZXR250
1988 ZXR400
1990 ZZR400
1991 KLE400
KAZU 中西
1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
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