ヨシムラ
現在、メーカーを問わず多くのスポーツバイクが採用しているカムシャフトの駆動方法がサイドカムチェーン。このスタイルを確立したのが、カワサキ水冷シリーズの祖、GPZ900Rなのである
80年代に入ると、Z1からの流れを汲む空冷Z系モデルのアドバンテージはすでにないといっていい状況だった。メーカーの上層部から、そしてカワサキファンからエンジニアに求められたのは、72年にZ1が登場したときのような、他を圧倒するスペックを持った最強のニューマシンだった。
そして多大なる期待とプレッシャーの中で、83年末、次世代モデルとして発表されたのが、紆余曲折の末、水冷エンジンを採用したGPZ900Rニンジャであった。
そのスペックは、周囲の期待を上回るもので、最高速度250km/h以上、ゼロヨンは11秒を切るというレベル。まさに“世界最速”の冠をかぶるにふさわしい数値を叩き出したのだ。さらに、アメリカ・ラグナセカで行なわれた発表試乗会で、世界各国から集められた約100人のプレス関係者は、洗練されたスポーツ性を備えた走行性能に驚かされることになる。そして、この高い走行性能に貢献した要素の一つがサイドカムチェーンだったのだ(もちろんハイスペックなエンジン性能にも関与している)。
1984 GPZ900R
当時、サイドカムチェーンは高性能を追求するのに適したレイアウトであったため、4輪のエンジンでは当たり前に採用されていたシステムであった。が、バイクにおいては過去にトライアンフ・バンディットやBSAフーリーに試されるも、成功し得なかったもの。そういった面ではリスクを感じていたには違いない。しかし、やみくもに採用したのではなく、Z1300の開発で得たノウハウをフィードバックするといった裏付けがあってのものだった。リッタークラスの量産車初となるサイドカムチェーンの採用は、エンジンをコンパクトにすることができ、バンク角を稼ぐことに成功。また、使用する部品点数が少なくでき、車体重量の軽減にも寄与している。さらに吸気ポートをストレートにレイアウトできるというメリットもあり、現在はスポーツバイクのほとんどが採用するシステムなのである。
エンジンの水冷化と同じように、技術の進歩にともない時代が必要としたものなのかもしれない。しかし、カワサキが最初に成功させたスタイルであることは紛れもない事実である。
1986 GPX750R
KAZU 中西
1967年4月2日生まれ。モータージャーナリスト。二輪雑誌での執筆やインプレッション、イベントでのMC、ラジオのDJなど多彩な分野で活躍。アフターパーツメーカーの開発にも携わる。その一方、二輪安全運転推進委員会指導員として、安全運転の啓蒙活動を実施。静岡県の伊豆スカイラインにおける二輪事故に起因する重大事故を撲滅するための活動“伊豆スカイラインライダー事故ゼロ作戦"の隊長を務める。過去から現在まで非常に多くの車両を所有し、カワサキ車ではGPZ900R、ZZR1100、ゼファーをはじめ、数十台を乗り継ぎ、現在はZ750D1に乗る。
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